冬の寒さがピークを迎える頃、小さなアパートの一室にて男が炬燵で寛いでいた。

 上半身を天板に預け、脱力しきっている男の服装は薄手のスウェット1枚。あらゆる布に包まりながら「寒い」と文句を垂れていた去年からは想像もつかないほど気の抜けきった幸せそうな顔に、いま自身が勉強に追われている事もあって少女はじとりと恨みがましい視線を送ってしまう。


「どうしたんだい?そんな顔して。分からないところでもあったのかな」


「別に、なんでもないですけど」


「君はどんな顔してても可愛いんだけどさ、そのジトっとした目は悲しくなっちゃうな」


 口ではそう言いつつも表情は変わらないまま。何が面白いのか、少女の頬を指でふにふにと突く。


「こん詰めすぎても良くないし、一旦休憩したらどう?せっかくの炬燵だしアイスでも食べようよ」


「……そうですね。一旦頭をリセットします」


 そうこなくっちゃと彼は上機嫌にキッチンへと向かい、カップアイスだけを片手に戻ってきた。


「スプーン忘れてますよ」


「やだなぁ、そんなにおマヌケさんじゃないよ。まあ見ててご覧」


 その言葉と共に、細い指先が空中をすいっとなぞる。

 その動きに合わせて蓋がひとりでにパカッと開く。滑らかなバニラが透明なスプーンで掬われたように、ふよふよと少女の口元まで漂う。少しだけそれを見つめ、青年の方を向けば「ほら、あーん」と楽しそうな顔をしている。

 大人しく口を開ければ、じゅわりと優しい甘さが広がって、張り詰めていた気分が緩む。


「たまにはこういう食べ方もいいかなって」


 そう言って微笑む彼の表情からは、少しでも気持ちを休ませようとしてくれているのが伝わってきて。ただ遊んでいるだけならともかく、そんな表情を見てしまえば――「餌付けされてる気分」だなんて言葉はアイスと共に飲み込んで、また大人しく口を開ける以外に選択肢は無かった。