冬の寒さがピークを迎える頃、小さなアパートの一室で声が上がった。
「寒い、もうダメだ。今日こそは凍死しまう……」
セーターにカーディガン、ブランケット。あらゆる布で丸々とした男は、三角座りをした体をさらにぎゅっと縮めた。
そんな男の発言に、少女は『何を言っているんだ』と言わんばかりの表情を隠すことなく浮かべる。
「あなたもっと寒い国から来ましたよね?」
「向こうでは暖房器具がしっかりしてたからね」
「悪かったですね、設備悪くて」
突如つかれた悪態にぺしっと男の頭を叩けば、ごめんごめんと悪びれる様子のない謝罪をされる。
その様子に若干苛立ってブランケットを剥いでやろうかと思ったところで、腕を引かれた。そのままブランケットの中、男の足の間に引きずり込まれる。
「ちょっと、人で暖をとらないでくださいよ」
「こら、暴れたら風が入るじゃないか」
じたばたと抵抗すれば背中から抱き締められる。触れ合った箇所からゆっくりと広がる熱で温かさは増して、満足気な様子なのは顔を見なくても分かった。
力の差からして抜け出すのは無理だ。少女は諦めて男に体を預ける。
「夏も言いましたけど、居候先を変えれば解決しますよ」
「それだけは絶対に嫌だなぁ」
「…………あなた魔法使いですよね。自分でどうにか出来ないんですか?」
「出来るけど、疲れるからやだ」
数秒後、少女はふんっと渾身の力で立ち上がり、今度こそブランケットを剥ぎ取る。
「あああああ寒い!!急に何をするんだい!!」
「なぁにが『やだ』ですか!出来ることやってから言ってくださいよ!」
男は「鬼!悪魔!人でなし!」などと情けない声色で騒ぎ立て始めたが、段々とその声は元気を無くし、もうそれ以上は小さくならないサイズにまで縮こまる頃には無言になっていた。
「………………来年も居座るつもりなら、炬燵、検討してもいいです、けど」
「ほんとかい!?いるいる!元々もう一生居るつもりだったからちょうどいいね、というわけで買いに行こう早く行こう!」
あまりの縮こまりように可哀想だと思った少女の提案に、男は食い気味で返答を返す。さらりと重要なことを口走っていた気がしたが、突っ込む暇もなく手を引かれる。
「わ、ちょっと、流石にこのままは寒い!」
止める間もなく玄関の扉が開かれる。冷えた冬の風に晒されるはずだった体は、代わりに春の陽射しに包まれた。
「これくらいだったら頑張るさ。それに、たまには魔法使いっぽい事もしておかないとね」
先程までの姿は見る影もなく、男は手を繋いだまま上機嫌で歩き出す。その様子に浮かんだ数々の言葉を飲み込む変わりに、少女は大きく溜息をついた。